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社員紹介

INTERVIEW

DX化をはじめ、これまでやったことのないことに挑戦する。

小湊鐵道の地元でもある千葉の食品会社で役員まで務めながら、2019年に副社長へ就任した石川卓生は、代表取締役社長の石川晋平のいとこでもある。側から見れば「同族経営」になるが、卓生の行動や言動に触れると、そんな言葉におさまらない「進取性」や「先進性」が感じられる。副社長として、これから小湊鐵道をどうしたいのか、どこを目指すのか、率直な話を聞かせてもらった。

石川卓生

石川卓生

小湊鐵道株式会社
代表取締役副社長

「小湊鐵道を変えていきたい。手伝ってくれ」と晋平社長に言われた。

石川晋平社長とは、いとこ同士ですよね。

社長は私の1歳年上の、いとこです。小さい頃は、よくプロレス技をかけられていましたね。私には2歳下の弟がいるんですが、弟はよく虎刈りにされて帰ってきていましたよ(笑)。

そんないとこ同士が、今や社長と副社長の関係というのも不思議ですね。

こうなるとは夢にも思ってもいませんでしたけどね。私は大学を出てから、千葉が地元の食品会社へ就職し、ずっとその会社で働くものだと思っていましたから。

どういう経緯で、現職に就任されたのでしょう。

その食品会社で2018年、取締役に就任したんです。それから1年ほど経過した頃に、晋平社長から連絡がありまして。「創業者の孫として社長に就任したのだから、小湊鐵道という会社をいろいろと変えていきたい。同じ『孫』の立場から、自分を手伝ってくれないか」と言われ「どうしたものか」と最初は悩みました。それでも兄貴分である晋平社長からの真剣な相談に、自分にも何かできることはないかと考え始めました。

でも、取締役がそんなに簡単に転職、というわけにもいかないですよね。

当時はその食品会社と鉄道大手がコラボして、新チャネルを開拓している時期でもあり、同僚や得意先にも恵まれて仕事も楽しかった。何よりこんな自分を育ててくださった会長を尊敬していたので「転職したい」という話は切り出しづらい状況にはありました。意を決して、会長と話をさせてもらう機会をいただいたのですが、会長からは「そんなに簡単に『うん』とは言えない。社長に会いたい」と言われました。

なんだか、結婚したいという娘に「彼氏に会わせろ」と言っているお父さんみたい(笑)。

ですよね?(笑)ところが実際に会長と晋平社長が会ってみると、15分くらい話しただけで意気投合しちゃって「飲みに行こう」ということになりまして(笑)。

早っ!(笑)

晋平社長がずいぶんとハメを外したんですが、それを会長が喜んでくれましてね。結果としては、会長も私の転職を承諾してくれて。さらには私が小湊鐵道に入った後、会長が自分のところの社員を連れて「小湊鐵道のトロッコ列車に乗りたい!」なんて言ってくれました。

それは、実際に乗られたんですか。

乗ってくださいましたね。そうしたら、会長はじめ食品会社のみなさん、小湊の大ファンになってくださいまして。

それはまた、なぜ大ファンに?

会長たちにご乗車いただいたトロッコ列車には、私も晋平社長も同乗させていただいたのですが、沿線の人たちが私たちの車両に手を振ってくれたんですね。会長もその様子にいたく感動しておられました。「同じ千葉でも、人がたくさんいて肩がぶつかっても挨拶もしないような地域とは違って、ここは人の優しさがある」と思われたそうで「素晴らしい、これが上総心だ!」なんて名言を残されました。

「上総心」を根づかせていくことが、自分の使命だと思う。

「上総心」って何ですか。

会長の造語です(笑)。かつての千葉の呼び名が「上総」ですから「千葉の魂」みたいな意味ととらえればいいと思います。小湊鐵道も、会長の食品会社も、千葉が地元ですからね。「上総心」という言葉を晋平社長もいたく気に入りまして、それまで年2回の社内表彰を「徳の実行賞」と呼んでいたのを「上総心賞」と改称したほどです(笑)。

社内表彰では、どんな人が表彰されるのでしょう。

明確な基準があるわけではありませんが、大ざっぱに言えば「いいことをした人」を褒め称えよう、という賞です。社員はもちろん表彰対象ですが、社員じゃない人を表彰したこともあります。

言っている意味がよくわかりません(笑)。

当社の関連事業でゴルフ場があるのですが、そこのレストランで働いている方でとても愛想のいい方がいらっしゃって。その方は小湊鐵道の社員ではなかったのですが、晋平社長に「上総心賞でいいよね?」と聞かれたので「いいと思います」と答えたら、表彰が決まったということが以前ありました(笑)。そうしたらその方の旦那様が喜んでくださったとかで「額を買ってくるから、飾っとけ」とおっしゃったと聞きました。

なるほど、表彰の基準は「上総心がある」こと、ですね(笑)。

そうですね。そんな「上総心がある」人の集まりが、小湊鐵道という会社でありたい、と常日頃から思っています。

「上総心」は小湊鐵道に根づいていますか。

最初は根づくも何も、という感じでしたよ(笑)。小湊鐵道に入社した時は「どうしたものだろう」と、頭を抱えましたね。私は総務や経理などの管理部門を任されたのですが、何しろオフィスが暗かった。食品会社ではずっと営業畑だったからギャップを感じたのでしょうが、社員同士の会話がほとんどないのが信じられなかった。事務の仕事も、例えば伝票の処理では上司の仕事は印鑑を押すことだし、手書きだし。10年くらい前なのにパソコンが1台しかないとか、「いつの時代の話?」と思うような世界が目の前の現実でした。

ということは、卓生副社長の小湊鐵道人生は、「上総心」をいかに根づかせるか、が大きな課題のスタートになったわけですね。

カッコよく言えばそうなります。まず取り組んだのが、手書きをやめること(笑)。そこから今風に言えば「DX」に向けたさまざまな取り組みを進めていきましたが、そうこうしているうちにコロナ禍に見舞われて。「これからどうするか」と晋平社長と相談して、これまでやったことのないことをやっていこうと。

DX化で、アナログなコミュニケーションが活発に。

「これまでやったことのないこと」とは?

2020年の夏から次年度の経営計画策定を準備して、翌2021年4月にはマネージャークラス全員に向けてレビューを実施しました。この計画が何のために組まれているのか、みんなに理解しておいてもらいたいという想いを込めて、レビューという試みを初めて行いました。それでも私と晋平社長だけでは、みんなに理解を深めてもらうのは難しいのではと心配して、外部から野田さん(別途インタビュー記事参照)に入ってもらいました。野田さん、声が大きいし(笑)。

なるほど、それで実際に理解は深まっていったのでしょうか。

計画を実現するための取り組みを通じて、少しずつ理解は深まってきているのではないかと思います。具体的な取り組みとしては、バス業界では初めてと思われる「自動日報」の導入を実施しました。

「自動日報」とは、どういうものですか。

一言で言ったら、毎日のバスの運行にまつわる情報を一元的に管理できるシステムですね。それまでは日報は手書きで、その処理に時間も手間もかかっていたのを、全部自動化したという画期的なシステムです。このシステムのおかげで、ドライバー全員の呼気チェックの状況も確認できるし、ドライバーごとの走行時間もわかるし、休憩時間が適正に取得できているかとか、どの区間を何キロで走行したかもわかる。そうなると、これまで以上にドライバーが緊張感を持って運転に臨むようになったし、運行責任者も責任を持って業務管理に取り組めるようになりました。

いわゆる「見える化」によって、それぞれの立場の人間が何をなすべきかを可視化できるようになった、ということですね。

さらにはこのシステムを活用して、もう一つくらい新しい取り組みができるのではないかと考え、ダイヤ編成の情報と連動させて、ドライバー一人ひとりの勤怠管理を一元的に確認するシステムを稼働させることができました。これはドライバーに貸与している自動日報用のスマホで、ダイヤごとのQRコードを読み込むと、そのドライバーそれぞれの労働時間が何時間になって、例えば「ワンマン手当」がつくかどうかも自動で判断できる、というシステムです。

すごい! まさにDXですね。

これまでは営業所の事務スタッフが何人もで処理していた勤怠管理が、あっという間にできるという、確かにDXなシステムですね。一方で、そんなシステムの導入にあたって、いろんな立場の人間が集まってアイデアを出し合う風潮が根づいてきましたし、部門横断的なコミュニケーションができるようになりました。

DX化によって、アナログなコミュニケーションも活発化した、と。

私や晋平社長だけで何かを変えられるかと言ったら、それは難しいと思っていました。今回は、部長やマネージャーといった各部門の管理職や野田さんを巻き込むことができたから、実現できた変化なのだと思っています。今後は、いわゆる幹部層だけでなく、それぞれの部門のメンバーも巻き込んでいかないといけないと考えており、各部門で週一回の「振り返り会」を催したり、会社が費用を負担するから月に一度くらいは懇親会を開きましょうとアナウンスしたり、といった取り組みを行なっています。

先人が遺した小湊鐵道のバトンを、次世代に渡していくために。

「上総心」が根づきつつある感じがしてきますね。

そうですね。例えば鉄道部門では、沿線の人とLINEを使って情報共有を行っています。2023年3月現在でそのグループLINEには52名の方が登録してくださっており、例えば朝、トロッコの乗車人数をお知らせし、その情報に基づいて沿線のみなさんがコロッケやまんじゅうなどをご準備される、といった用途でご利用いただいています。一方でバス事業は、前述のようなDX化を推進することでさまざまなデータを収集して分析することができます。また、実際にご利用いただいているお客様と接してお話をうかがったりすることで、改善点を見出して新しい取り組みにつなげるというチャレンジができる。これによって路線バスにご乗車いただいているお客様の人数を15分単位で把握することができますから「この時間は乗車数が少ないから運行数を検討しよう」とか「この路線は乗車数が多いから増便しよう」といった検討も可能です。そんな実態に即した対応をしていけば、お客様に沿ったサービスをお届けできるようになるだろうし、ゆくゆくは観光のお客様の獲得にもつながっていくだろうと考えています。それが、先人たちが残してくれた小湊鐵道という財産を活かし、後世に伝えていくことになると私は信じています。

お話を聞いていると、今は管理部門を軸にお仕事をされていますが、前職の営業畑での経験を活かしているようにも感じられます。

前職の食品会社で、会長から常日頃言われていたのが「例えばミートボールなら、誰が食べているのか、真剣に考えなさい」ということでした。お客様は誰で、何を望んでおられるのかをきちんと考えることが大事なんだ、というメッセージとして、今でも大切にしています。ふと思い出しましたが、食品会社の製造部門と営業部門って、あまり仲が良くないんです(笑)。営業部門は「売りたい」一心でつくってほしいと製造部門にお願いをするんですが、製造部門は「忙しい」「無理だ」となりがちで。それでも、なぜつくってほしいのかをきちんと説明し納得してもらえたら、製造部門に協力してもらえるという経験をたくさんしてきました。これって小湊にも言えることだと思っていて、例えば一人のお客様からいただく運賃は150円といった小額かもしれないけれど、そのお客様にどんなサービスをお届けすればいいかを、部門の垣根なくみんなが考えて行動に移せるようになれば、今まで以上に小湊鐵道のファンが増えるのではないかと私は思っています。

では最後に、これから小湊鐵道で一緒に働く人には、どんなことを求めたいと思われているか、お聞かせください。

やっぱり「上総心」をお持ちかどうかではないでしょうか。「自分が、自分が」とか「自分にはこんな能力があるよ」とかいった自己主張だけでなく、その能力を小湊鐵道というステージでどうやって活かせるかを客観的に考え、伝えてくださる方と一緒に前を向いて歩いていきたいですね。歴史のある会社なので、変えていこうとすると時間も手間もかかることはあるでしょうが、変えていくべきところはたくさんある。変えることで、次世代にバトンを渡せるようにしよう、という気持ちを共有いただける人となら、一緒に歩んでいけるのではないかと思っています。

今日は長い時間、どうもありがとうございました。

(インタビュアー)
高藤悠子 プロビティ・グローバルサーチ株式会社 代表取締役
慶大卒。新卒でメーカーへ入社後、人材紹介会社へ転職。外資・IT大手などを担当し、若手からエグゼクティブまで幅広い人材の紹介業務に従事。その後、JACリクルートメントのタイ現地法人へ転職し、執行役員としてスタートアップに対応。2012年の帰国を機にプロビティ・グローバルサーチを設立、現職に就任。現在に至る。